私は待っている。
自分の「仕事」を。
待つのも「仕事」のうちと言えるが、それ自体は「仕事」に付随するものだ。
私の「仕事」とは‥
「‥ブラインドの影に集中しろ」
「はい」
傍らの男の人の声に、機械的に反応する。集中しないと‥


11歳まで、私は病室以外の世界を知らなかった。
障害の名前は、難しいので忘れてしまったけど、生まれつき手足が自由に動かない障害だ。

部屋の外に出られないのが辛かった。
窓から見える空は、あまりに蒼く澄んでいたから。

一人で眠る夜が辛かった。
夜の病院は、あまりにも静か過ぎるから。

私のことで両親が喧嘩しているのを見るのが辛かった。
私を見捨てずに、ここまで育ててくれた二人が大好きだから。

「死んでしまえばいい」と何度思っただろうか。
私が死んでしまえばパパもママも喧嘩しなくて済む。

けれど、私は死んだらどこへ行くのだろうか。
天国? 地獄? どちらも違うと思う。
死んだら、私は消えてしまう。私にかかわった人たちの記憶だけを残して。

私は、何のために生まれてきたんだろう?


「今だ。撃て」
男の人の声と同時に右の人差指が反射的に動いた。スコープの中でスキンヘッドの男の人が、
額から血を吹きながら倒れる。
次はその隣にいる眼鏡をかけた男の人。頭の左側から血を吹く。

これで私の仕事は終わり。言われた通りにしただけ。ただそれだけ。
「撤収する」
「はい」
私は銃を素早く分解し、楽器のケースにしまう。その間にも男の人は私に背を向けて歩き出している。
ケースの蓋を閉じ、立ち上がった。
「行くぞ。早くしろ」
男の人がドアの前で立ち止まり、振り返っていた。

一瞬でも、足を止めて振り返ってくれたのが嬉しかった。
私が自分の足で歩くのを、待っていてくれる人がいるのが嬉しかった。


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