あの人と二人で食事をして、公園の駐車場へ向かう途中、5mほど前を歩くあの人の背中を見つめ、私は歩いている。
あの人が食事に誘ってくれたのは、少なくとも仕事以外では初めてだ。
理由はわからない。ただの気まぐれかもしれない。それでも・・・
「すっかり遅くなっちまった・・・」
私に向けてではない、ただの独り言。でも、店を出てから、初めて聞いたあの人の声。
「やっぱり、性に合わねぇことをするもんじゃねぇな・・・」
後ろからではあの人の表情はわからないが、多分苦笑しているのだろう。自嘲とも、嘆息ともとれるため息。
普段のあの人は、少なくとも私の前では、独り言を言うような人ではない。今日は少し疲れているのだろうか。
そう言えば、今日のあの人はいつもと何処か違った。何故か居心地の悪そうな表情をしていたのだ。
でも、初めてあの人が私のために時間を使ってくれた。時間とは、私があの人のために使うものの筈なのに。
だから、とても嬉しい。
こんなに嬉しいことは、今までなかった。
このまま時間が止まってしまえばいいのに・・・
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
そう、何でこんな簡単なことに気づかなかったんだろう。
時間を止めてしまえばいい。
多分、明日になればあの人は、今日のことなどなかったかのように私に接するだろう。
それは、一度手に入れた幸せが逃げてしまうということ。
それなら今、この幸せなままで、時間を止めてしまえばいい。
私は、その考えを実行すべく、私が最も愛するあの人の名を呼ぶ。
「ラウーロさん」
あの人が振り返った瞬間、私は銃の引き金を引いた。
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